普段は図書館で本を借りることが多い私ですが、この近藤 史恵さんの「風待荘へようこそ」は、表紙のほっこりとした絵に惹かれて即決で購入しました。物語の舞台のシェアハウスの優しい生活感がとても私好みで、普段からモデルルームのような家よりも、住んでる人の温もりが感じられる家に惹かれてしまいます。
あらすじは、夫から急に離婚を切り出され、愛娘も夫と暮らすことになり、ひとりぼっちになってしまった眞夏が、SNSで知り合った芹さんに誘われ、京都のゲストハウスを手伝うことになるというお話です。転勤の多い夫の都合で10年働いていなかった眞夏は、専業主婦としてずっと夫と娘中心の生活を送ってきました。自分の人生を全て家族に捧げてきたのに全てを失った眞夏は、家族と住んでいた東京から、知り合いが誰もいない京都に移り、期間限定で暮らすことにします。ゲストハウスに隣接するシェアハウスで芹さんたちと暮らし始めた眞夏は、京都での生活を通して、誰かの妻や母ではなく個人としての人生を少しずつ見出していきます。
シェアハウスの面々や、ゲストハウスに泊まりに来る外国人観光客と関わることで、少しずつ眞夏の世界が広がっていく様は、読んでいて勇気を貰えました。私も過去に人生に行き詰って苦しかった時期がありましたが、環境を変えて新しい世界に関わってみることは、とても大事だと思います。そういう時こそ新しい世界に飛び込むチャンスなのかも。これは「逃げ」ではなく「チャンス」だと思います。
眞夏が個としての自分を取り戻していくと、娘である佐那との関係性も変わってきます。京都にやってきた佐那は、眞夏にも母親以外の顔があると気付きますが、私も自分の母に対してそんな風に思ったことがありました。眞夏が妻や母という属性から離れることで、佐那との距離が縮まるというのがとても面白い。どんな人間関係でもどちらか一方に負担が偏ると、負担を掛けてる側もしんどくなることがありますが、親子関係だと尚更難しいなと思います。
あと、この小説を読んでいて「いいな」と思ったのは、シェアハウスの人々の人間関係です。家族や恋人関係に付随しない人間関係の構築というか、家族や恋人ほどの束縛はなく、親友と呼べるほど距離も近くないし無理にお互いの領域に踏み込まないけど、困っていたら助け合えるみたいな。私自身、近すぎる人間関係が苦手で、「私たち、お互いのこと何でも知ってます」みたいなのがあまり得意ではないんです。人によっては冷たいと思われるかもしれませんが、人間関係ってとても流動的なものだと思っていて、どんなに仲が良かった人でも、ふと疎遠になったりするもので永続するものではない。例えば学生時代に仲が良かった子と疎遠になったからと言って、落ち込む必要はなく、人生のある瞬間を一緒に楽しく過ごせただけでいいんじゃないかなと思うんです。眞夏のように疎遠になっていた昔の同僚と再会し、また友人関係を始まるということもあると思うし、その瞬間瞬間に出会う人がいていいんじゃないかと。
最後にもう一つこの小説の魅力は、眞夏が作る唐揚げや黒豆のおこわおむすび、眞夏が京都で出会う数々のごちそうです。中でも魅力的に映ったのが、豆腐屋の厚揚げです。スーパーでよく厚揚げを買いますが、豆腐屋の厚揚げはより美味しいはず。観光客が多すぎて、あまり行かなくなってしまった京都ですが、仕事が落ち着いたら、有休を取って京都巡りしてみたいな。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。



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