「チ。ー地球の運動についてー」でお馴染みの魚豊先生原作・映画「ひゃくえむ。」を観に行きました。
まず映画を観て印象的だったのは、哲学的なセリフがとても多かったことです。「チ。」の時も哲学的な作品だと思いましたが、魚豊先生の作風がそうなんですね。ただ、今回は映画という尺の短さで、たくさんの格言が出てくるので、個人的に消化しきれない部分があったかなと思います。飲み込む前に次の格言が来るので、セリフ以外の登場人物の描写をもう少しじっくり見たかったかも。ここは、原作を読んで改めて消化していきたいと思います。とは言え、セリフには無駄がないし、心に残る場面も多々ありました。
私が印象に残ったのは、講演会での財津の「浅く考えろ~」のくだりと、海棠の「現実から目を逸らさず、現実を逃避する~」のくだりです。内山昂輝さんと津田健次郎さんは特にお気に入りの声優さんなのですが、お二方の芝居は本当に素晴らしかったです。
財津の場面は、講演会時の財津と、10年後の財津の変化も面白いなと思いました。ずっとトップを走り続けてきた財津にしか分からない気持ちの変化が感じ取れました。講演会で迷いなく発せられた言葉を聞くと、財津は悟りの境地に達しているように見えます。もしかしたら財津本人もそう思っていたのかも。でも、10年後に次のステージを迎えて、葛藤や迷いを抱えている姿は、人間らしいなと思いました。
海棠の場面は、終盤での登場とあって、コンパクトにまとめられていました。まず、あの風貌で現役選手というのに驚きました。海棠は、財津の陰で万年二位と揶揄されていますが、個人的には彼の哲学が一番しっくり来ました。というか、一番人生を楽しめそう。自分が一番じゃないこともしっかり認識して「俺は俺を認める」ことで、現実を逃避できる。気持ちのリミットを外せるし、何事も面白がれる気がします。そういう人って、絶対人生楽しいはず。
主役の二人の芝居も役にハマっていて、それぞれのキャラクターの個性が上手く表現されていました。特に小宮役の染谷将太さんの少し前のめりな台詞回しは、猪突猛進な狂気が伝わってきて、印象的でした。あと、子供時代のトガシと小宮を演じた種崎敦美さんと悠木碧さんの芝居も「さすが」という感じでした。
あと、アニメーションについても、人物の動きやカメラワークが素晴らしかったです。特に印象に残ったのは、高校生のトガシと小宮が出場した決勝の場面。入場からのワンカット演出は、ずっと鳥肌ものでした。カメラの手振れ感やアングルで臨場感が増して、緊張もヒシヒシと伝わってきました。人の動きがとてもリアルなのに対し、背景とか雨の描写はアナログっぽさがあって、そこの対比も面白かったです。特に決勝と同時に降り出した雨と、トガシの心がリンクしている演出が素晴らしかったです。レース後、雨でどんどんトガシの姿が見えなくなる描写が、その後の彼の人生を示唆していて、映画のなかで一番好きなシーンでした。
最後にもう一つ感じたことは、劇伴がめちゃくちゃ良かったということ。疾走感と緊張感を更に高めてくれていたと思います。改めてサントラも聴いてみたいな。
私は普段あまりスポーツを見る人間じゃないのですが、劇中に出てきた「試合終了まで10秒」という言葉がとても心に残りました。たった10秒のために、日々準備・練習をして一瞬で終わるレースに、全人生を懸けるって簡単に出来ることじゃない。でもそれが出来るのは、競い合えるライバルがいてこそのことで、一度「熱さ」を失った登場人物が、再び「楽しさ」を感じて走る姿が、とても美しかったです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。



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